インパクトマネジメント手法(Vol.4)

インパクトマネジメント手法とは

インパクト評価をはじめとするインパクトマネジメントのフレームワークや手法については、ロジックモデルやTheory of Change、Impact Weighted Accounts(IWA)などいくつかの手法が提言されつつあり、徐々に導入実例が出てくるなど浸透が進みつつある一方で、実務的な活用状況については手探りのものも多い状況です。一方で、こうした手法に関しては、遡れば1970年代より追加性の貨幣価値換算手法としての検討に端を発する非常に歴史の長いものです。

本シリーズでは、それら各手法について歴史的な系譜を紐解きつつ、どういった思想に基づき、何を目的として、どこに重きを置いた評価・マネジメント手法であるかを整理します。同時に、現状の企業経営・投資活動におけるインパクト活用における課題をあぶり出し、それらが各手法のどういった長所・短所に対応するかを、実務的な観点に照らして考察します。

インパクトマネジメント拡大期

SROIなど、黎明期からの既存の定量化・可視化手法からの発展形のみならず、「インパクト投資」という概念が明確に出現した2000年代後半以降、その拡大と軌を一にして、特にインパクト投資家を中心とした投資家向けのフレームワークも出現している。これらの中でも主要な一部の手法について紹介する。

5Dimensions of impact

概要

主にインパクト投資家をはじめとする投資家が活用することを念頭に設計されたフレームワークである。組織(投資先)の創出するインパクトに関する基本的な考え方であり、インパクトを以下の5つの「次元」から捉えるものである。

  • What(どのようなアウトカムか)
  • Who(アウトカムを享受するのは誰か)
  • How much (アウトカムの大きさはどの程度か)
  • Contribution(投資先の寄与度合い)
  • Risk(リスク)

同手法は、創出されるインパクトを多面的に分析・整理するツールとして多くのグローバルな投資家に活用されている。特徴としては、特定の(インパクト投資)案件における基本的な要考慮事項を網羅すること、それをベースとして投資家と投資先の意思疎通を図ることに重きが置かれている。したがって、KPI設定はするものの、あくまでも対話に基づく合意事項の進捗状況を定量的に把握するためのベースラインを構築するという意味合いが強く、波及効果を認識したりその価値を定量的に把握したりすることを目的とする他の手法とは方向性の異なるものであるといえる。

詳細資料・文献など

Charlotte, R. (2022) The contribution of impact management project for investors’ impact reporting. Repositório Institucional da Universidade Católica Portuguesa

インパクトレーダー(UNEP FI)

概要

UNEP FI(Financial Initiative)が定義するフレームワークで、国連が定義するマクロ目標であるSDGsを金融機関におけるミクロな目標に落とし込むためのものとして提唱されている。つまり、抽象的であるSDGsならびにそのための持続可能な開発に対して与える影響を金融機関が包括的に理解し、インパクトを特定するためのツールである。

インパクトレーダーはインパクトを大きく以下3つのカテゴリーに分類している。

  • Availability, accessibility, affordability and quality in domains essential to human dignity and development
  • Quality (physical and chemical composition and properties) and/or efficient use of our environment
  • Economic value creation for people and society as a means for meeting human needs within the confines of our environment

さらに上記3つのカテゴリー中で20程度の中分類を定義し、それぞれの中分類の中でポジティブインパクトとネガティブインパクトのそれぞれを標準的に定義している。また、それぞれのインパクトとどのSDGsが対応するかについても整理している。他方で、フレームワークの目的は包括的・網羅的に、投資先や投資行動が生み出すインパクトを特定することに重きが置かれているため、その目的からして定義されたインパクトの定量化や経済価値化に関してはスコープアウトされている。

詳細資料・文献など

UNEP FI – Impact Rader

インパクトマネジメント手法全体から見た位置付け

これらの手法は、定量化のための具体的な計算方法や可視化のための方法論を定義するものではなく、特に広範な社会課題・インパクトを取り扱う投資家という視点に立った際に投資戦略・ポートフォリオや投資案件(投資先)がどういったインパクトを念頭に投資をすべきか、網羅性を持って初期的な整理ができるよう汎用的に設計された枠組みである。

A.インパクトの定量的評価を行うことにより、会計的取扱や定量的な横比較の可能性を企図B.社会的価値が創出される経路やその波及効果について関係性を可視化C.社会価値創出に関する実績評価に加え、そのプロセスや意思決定を管理・高度化D.社会的価値が創出される領域やその類型に関して網羅性・汎用性を担保
フルコスト会計
費用便益分析
ロジックモデル●(広義の場合)
Theory of Change
Social Return of Investment
インパクト加重会計
アウトカム・マッピング
5 Dimensions of Impact
インパクトレーダー

特に投資検討時やエンゲージメント初期においては投資先がどういったインパクトをもたらすのか、そもそもどういった領域に対して運用資産やその他のリソースを振り向けていくべきなのかについて正確に把握することは一定の労力を要する中で、投資家・企業間でのコミュニケーションツールとして、斯様なフレームワークの存在は大きな助けになっているものと思われる。

一方で、これらフレームワークはあくまでもエントリーレベルでの整理には有用である一方で、これら単体でインパクトマネジメントが全て完結するわけではないので、初期段階に投資家・企業間でベースラインとして目線を合わせた後は、ロジックモデルやインパクト会計などの別の手段でより深掘りされたレベルでのインパクトマネジメントやエンゲージメントを推進していく必要があることはいうまでもない。

また、「投資家のためのフレームワーク」としているが企業やスタートアップにとっても、このような投資家が参照するようなフレームワークに沿って自社の創出するインパクトを整理することで、よりエンゲージメントが円滑になったり資本コストが下がったりする可能性が想定される。したがって、投資家に限らずこれからインパクトマネジメントの活用を検討されている企業・スタートアップの方々においても、初期検討においては一定の活用意義があるはずである。

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