インパクトモデルの構築、KPI設定が済んだところで実際の評価・定量化に移ります。(手作業で実施するケースにおいては、そのあとにKPI収集という大工程を挟みますが、こちらでは割愛します)前段で定義した各種KPIやRelationを接続・定義することで定量化を進めていくため、実質的にはRelationの定義が主対応事項となります。以下に主要なエッセンスをお示しします。
1.算術上の調整方法
算術上必要となる(一般的推計と同様)要素には以下のようなものがあります。
単位の調整
Inputの単位とoutputが同一概念で、単位が異なる際に、それを調整する(千円→億円など)
粒度の調整
Inputの単位とoutputが同一概念で、粒度(~あたり、~ベース)が異なる際に、それを調整する(1次エネルギー・最終エネルギーなど)
比率の調整
Inputに対してoutputが包括的概念の場合、どの程度の比率に該当するかを調整する
2.基本的な調整・推計方法
インパクト定量化において基本形となる(一般的推計と同様)要素には以下のようなものがあります。
時間(工数)と効果(金額等)の調整
時間単価を乗じることによって、金額などの経済効果に調整する。例えば、時間単価は標準的なケースでは「賃金統計調査」(厚生労働省)を活用する
単位数(人数、件数、個数等)と金額等の調整
1人・1件・1個当たりの単価を乗じることによって、金額に調整する。コンシューマ系ビジネスであれば単価が判明しやすいケースもあるが、特にBtoBはそうでないことも多いため、過去の情報や業界などで平均的な水準から判断して適用する
1単位当たりの効果・インパクト
Inputあたりの効果をInputの量に掛け合わせて効果推計。効果に関しては、企業自体が言っていること、一般的に言われていること、論理的に算出可能であること、政府系のワーキンググループや調査会社レポートでいわれていることなど、一定の信頼性を有する情報を活用する
3.主要な推計パターン
効果やインパクトを推し量るうえでエッセンスとなる主要な推計パターンとして以下のようなものが存在します。
規模の増加/減少による指標の改善があると仮定
大規模化・アウトソーシングの効果として、Input1単位当たりの効率が一定水準改善すると仮定して効果計測。一定水準の例としては、中小企業と大企業の生産性の比較、小規模病床と大規模病床の効率性の比較、等
特定の指標が現在水準を維持、あるいは過去水準程度を達成すると仮定
値上げ抑制など、対象とする指標が現在水準を維持する、あるいは理想とする過去の水準を達成するとして、その差分を効果として認識する
全体として判明している比率や数値を適用
費目別の費用比率等、特定企業や事例に関しては判明していないものの、一定の規模での水準が判明しているものに関しては、同数値を適用する、あるいは実際の評価対象となるケースとの違いについて微調整後適用する
複数サンプリングを行い平均的な比率や数値を算出
すべての情報が明らかになっていないケースにおいて、例となるような個別案件より複数サンプリングを行い、それらの効果などについて平均的な水準を設定したうえで適用する。
適正水準や平均的水準へ収斂すると仮定
一般的に適正といわれる、あるいは論理的に適正と考えられる水準に特定指標が収斂していくと仮定する。ただし、同仮定は特定指標が比較的コントローラブルで、そのような動きをすることが必然的であることが望ましい
当該要素不存在時の影響(状況の差分)を適用
評価対象とするアクティビティが仮になかったと仮定すると、どの程度の影響が出るかを認識し、その差分を適用する
セグメンテーションすることで一定の比率を設定する
特定指標を一律適用することが妥当でないと思われる場合、正確性向上のために当該指標を適用可能なセグメントに特定し、その構成比率を乗じる
業界平均や一般的水準からの差分を適用する
特定指標に関して、評価対象が業界平均対比でどの程度アウトパフォームしているかを認識し、その差分を適用する
4.特に留意すべき点
飛躍のある推計・定量化をしてしまう代表的な例を想定し、例えば以下のような目線で推計ロジックなどを見返すことで、推計の妥当性を担保します。
時間的観点の考慮
- 時間の経過とともに効果が大きく増大/低減していく可能性はないか
- イニシャルとランニングで効果が異なるケースなど、製品・サービスのライフサイクル全体で見た時に異なる結果となる可能性はないか
- ストックとフローの考え方は正しく適用できているか、継続性も重要な観点であるにもかかわらず、フローを採用していたり、逆にストックを採用することでミスリーディングな過剰なインパクトアピールになっていないか
セグメント観点の考慮
- 中身が多様であるにもかかわらず、一律で何らかの比率や数値を適用することは妥当か、加重平均は不要か
- セグメント比率や稼働率などは正確に適用できているか
適用数値観点での考慮
- (特に前年度の試算などを引き継ぐケースにおいて、)計数に埋め込まれている基礎統計(人口、農家戸数、GDP、市場規模予測等)は正しいか、時系列として対応しているか
- 特にサプライチェーン全体での数字を併用する際に、整合性の取れた同じ粒度の数字となっているか(庭先価格、卸売価格、末端価格など)
5.最終的な試算結果の検証方法
以下のような観点から、試算結果の妥当性を高めることも可能です。
- いくつかの経路から試算すると一定のレンジに収まっている
- 業界水準、一般的水準との比較で一定のレンジに収まっている
- 企業などがアウトカムとして開示している水準に近似している、等
impactlake™ 関連機能
KPI管理・インパクト定量化機能
impactlake™では、上記のようなインパクトマネジメントにおける各種インパクトの体系的な定量化が可能です。
機能詳細
- インパクト創出経路(インパクトモデル)と連動する形で、統合的にインパクトの定量化が可能
- ActionKPIに対して推計ロジック(Relation)を設定していくことで最小工数で体系的な試算が可能
- 推計ロジックについては参照する統計や計算式なども蓄積可能で、翌年度以降同様のモデルではKPIを更新するだけでインパクトが自動算出可能
機能活用の例
- 対象となる事業・取組・投資先のインパクトについて定性(経路)と定量(KPI)を統合的に管理する
- 対象となる事業・取組・投資先のインパクトを一定の推計ロジックに従って定量化する
- 対象となる事業・取組・投資先の取組や、それらが創出するアウトカム・インパクトに関連したKPIを継続的に連続性のある形で管理する
(その他、本機能に関する不明点等ございましたらサポートまでお問い合わせください。)