インパクトの経済価値化の基本的な考え方
一般的に何かの価値を経済的価値として認識する場合には、広く「インカムアプローチ」「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」などが用いられます。それぞれ既存の資本市場や金融領域で一般的な価値評価の方法ですが、インパクトの経済的価値評価に利用可能な枠組みであるため、本インパクトマネジメント手法においても、類型として取り上げるものです。各アプローチをインパクトの経済価値評価の文脈に照らすと、以下のような意味合い・活用方法となります。
インカムアプローチ
当該インパクトが創出されたこと(あるいは今後創出されうること)により得られる収益・便益、あるいは創出されなかった際のリスクや別途必要となるコストをベースとして、当該インパクトの価値を算出するもの。現時点では、多くのケースにおいて最も実務的に活用可能とみられ、下記に紹介するパターンについては基本的にこのアプローチに即して整理しているものとなります。
コストアプローチ
当該インパクトを評価対象と同一の方法あるいは別の方法で達成するとしたらどの程度の投資や費用が必要となるか(再取得・再構築コスト)、という観点から経済価値評価を実施するものである。一方で、先行的にインパクト達成を実現しているものも少なくそもそもどの程度の投資や費用が必要となるかを判断する情報に乏しいのが現状であるとみられます。
マーケットアプローチ
当該インパクトが過去に評価・経済価値化された実例を参考として、同様の比率や計数(×XX倍、等)などを適用することで算出するもの。非常に簡潔でかつ明瞭である一方、現状は類似テーマなどがそこまで存在しないことから、一定情報開示やパブリックな場での試算根拠の開示等が進んできたタイミングで本格的に活用可能となります。
定量化したインパクトの経済価値換算
インパクト評価・定量化ののち、特に経済的価値化が可能なもの(JPYやUSDなどで表現できるもの)に関しては、換算まで行うことでインパクト領域間の横比較や、属する企業間での横比較が可能となります。経済的価値への換算はそのような観点でのメリットもあるものの、実際には算出が煩雑であり、加えて妥当性の担保が難しいなどの理由から敬遠されがちであることも事実です。
しかしながら、インパクト会計の実施や、最終的な意思決定に際しては経済的価値換算された社会・環境・経済観点でのインパクト情報は非常に重要性が高いため、ここでは最低限の妥当性担保のための主要な方法論をご紹介します。ただし、どれか一つの方法が必ずしも優れているということでなく、理想的には複数の出口(実際に創出される経済的価値)を組み合わせたり特定の経済的価値に代表させたりして表現するべきであり、まずそもそもにしてどういった経済的価値に紐づくかを認識することが重要となります。
経済的価値に直結するもの
炭素排出量とカーボンクレジットとの関係性など、非経済的単位であるものに対して一定のレートで市場価格が決められているものや、医薬品ロスの削減等直接的なコスト削減(粗利向上)などに紐づくものについては、当該効果を算出・適用することが可能です。
人数・時間に紐づけ可能であるもの
労働時間の軽減など、非経済単位の中でも確率的ではあるが一定の仮定を置くことで経済的価値に紐づくものについては、以下のようなパターンで定量化を図ります。なお、直接的に人数や時間を示さないケース(例えば、労働寿命の延伸等)においても、本類型は応用可能です。
①時間効率化
捻出された時間が元のアクティビティに同様に消化されたと仮定して、元のアクティビティの時間=経済的価値換算を実施します(e.g. 介護施設で特定業務が10時間/日改善した→同施設における10時間分の人件費/日が改善したと捉える)
②時間価値最大化
捻出された時間が何か特定の別のアクティビティに活用されたと仮定して、振替先のアクティビティの時間=経済的価値換算を実施します(e.g. 営業が社内MTGに使う時間が10時間/週改善して本来の営業活動に使えるようになった→同施設における10時間分の営業機会損失が改善したと捉える)
③時間価値不明
捻出された時間が不特定のアクティビティに活用されたと仮定して、一般的なアクティビティの時間=経済的価値換算を実施します(e.g. 家事に使う時間が10時間/週改善した→一般的な国内一人当たりGDP分のGDP押し上げ効果に寄与したと捉える)
その他の換算・評価観点
間接的に価値につながりうるもの
フードロスの削減によるごみ処理費用の削減、定住維持・移住促進による地方税収の増加、雇用安定化・処遇改善による消費行動活性化など、直接的には経済的な価値ではないものの同概念に関連して経済的効果が発生するような概念については、その関係性を基に経済的価値換算が可能です。
中長期的な価値につながりうるもの
スタートアップ設立件数、教育水準の向上等、短期的には価値とは呼びづらいものの将来的に価値を生み出す・高まる可能性を示唆するようなものに関しては、それらによる価値創造がどの程度見込まれるかを推計することによって経済的価値換算が可能です。また必要に応じてそれらを現在価値に割り戻すことも検討します。
波及的に価値につながりうるもの
自己実現の向上等の精神的な向上や、消費行動の変容などの波及的向上効果などは、それによる生産性や効率の向上など、関連する経済的価値が質的に向上することによる経済的価値の波及的な高まりを算出することで経済価値換算が可能です。
impactlake™ 関連機能
インパクト定量化・経済価値化機能
impactlake™では、上記のようなインパクトマネジメントにおける各種インパクトの体系的な経済価値化が可能です。
機能詳細
- インパクト創出経路(インパクトモデル)と連動する形で、統合的にインパクトの経済価値化が可能
- ActionKPIに対して推計ロジック(Relation)を設定していくことで最小工数かつ一定のフォーマットに則って体系的な試算が可能
- 推計ロジックについては参照する統計や計算式なども蓄積可能で、翌年度以降同様のモデルではKPIを更新するだけでインパクトの経済価値が自動算出可能
機能活用の例
- 対象となる事業・取組・投資先のインパクトについて定性(経路)と定量(KPI)を統合的に管理する
- 対象となる事業・取組・投資先のインパクトを一定の推計ロジックに従って定量化・経済価値化する
- 対象となる事業・取組・投資先の取組や、それらが創出するアウトカム・インパクトに関連したKPI・創出価値を継続的に連続性のある形で管理する
(その他、本機能に関する不明点等ございましたらサポートまでお問い合わせください。)